財務、記録、体質の限界か -鳥人間コンテスト休止についてOBの視点

かつて滑空期部門に出場していたチームに所属していたものとしては残念なニュース。また偶然にもついこの間、ここでチームの現状を嘆いてたこともあって、実にやるせない。
「鳥人間コンテスト」休止 読売テレビ、制作費削減で - ITmedia News

読売テレビ放送は1月16日、「鳥人間コンテスト」の今年の大会を休止すると発表した。番組制作費の削減のため。来年の大会は開催する。

読売テレビの公式サイトより

昨今の厳しい経済環境はテレビ業界も同様で、番組制作費の見直しが検討されております。その中で、「鳥人間コンテスト」は参加者の安全な飛行を重視して大掛かりなセットや救助システムを組んでおり、予算削減を理由に安全面を軽視することは考えられません。事務局としても、大会開催にむけて検討を重ねてまいりましたが、上記の理由で09年の開催休止を選択しました。バードマン、また関係者の皆さまには、何とぞご理解を承りたくお願いいたします。

出場者にとっては、甲子園や箱根駅伝と同じ位置付けにある。ただのテレビ番組ではなく、これは大会、コンテストなのだ。

一方で、大会休止は残念なニュースだけど、大会そのものについてもここ数年、状況が変わってきたんじゃないかとも思う。実際にチームに所属したり会場に足を運んで飛んでいる所を見物したりするのは楽しいんだけれど、それが2時間の番組になると、2日間の大会のエッセンスだけを取り出して、飛ぶチームはクローズアップ、飛ばないチームはダイジェストで飛ばしまくるだけの番組。制作側の意図として明らかに視聴率という数字を取りにいっているのだ(だが狙えば狙うほど冷めるという皮肉)。
「そろそろ限界」が本当に来てしまったわけだ。

限界1. スポンサーの限界

民放だから、スポンサーからの広告費で成り立っている。未曾有(みぞうゆう、と読む・笑)の不況に陥っている今、企業の収益が減る→広告料を減らす→テレビ局は安上がりなバラエティしか作らなくなる→テレビ離れが進む→テレビに広告価値が無くなる→企業は広告料が減らす→以下スパイラル。

大会の会場には何があるか。
高さ10mのプラットフォーム。その中にはスタッフがいる場所もあるし、クレーン付きのカメラもある。そもそも場所を確保するためには何ヶ月も前から土地の所有者(彦根市?)に許可を得なければならないだろう。
救助隊。ダイバーの人件費。ボートを何隻も出動させる。ボートの燃料費。また、そのボートは機体を陸地まで引っ張って回収しなければならない。
観覧席と実況席。ちなみに実況席にのみ屋根がある。応援席近くには30m以上はあろうかというクレーンの上にカメラマンがいる。中継用にヘリコプターも派遣。
救急車配備。これはパイロットだけのためでなく、実際は熱中症で倒れる観覧者/応援者を病院に運ぶことも多々ある。
ゲストの人件費。桂三枝長嶋一茂の3-1コンビから、ここ数年は今田耕司+女性タレントがプラットフォームに、応援席には若手お笑い芸人コンビ、救命ボートには荻原次晴という体制。実況席にはアナウンサーと専門家とこれまたゲスト(元バレー選手の大林素子がよく出てくる)。

一方、参加者は機体や服、ヘルメットなどに企業のロゴが入ることが禁じられている。ハマハマのおっさんはヘルメットにこっそりスズキのロゴを入れたりしてたが。かといって、チームのスポンサーでもないのに番組のスポンサーだからと機体に広告張られるのも嫌だけど。そういえば東工大"マイスター"は「國府田マリ子」とTシャツに書いたことがあったけど、あれは誰?

限界2. 滑空機部門の記録

滑空機無制限部門は「みたか+もばらアドベンチャーグループ」のための部門みたいなもんで、400mを超えるフライトはみたかもばらしか無い。100m飛べば8位内くらいに入れる。200m飛べば3位はカタい。という中で、ひとつだけ400mとか500mとか飛んでるもんだから、「また長州小力か!」と嘆かざるを得ない。1チーム一人勝ちの状況だから、大会側はフォーミュラクラス(機体の大きさ制限がある部門)を今後の中心にしたいという意向があると聞く。

が、実際は「フォーミュラクラスは大会にあまり出ていないチームを中心に選ぶ。何回も出ているチームはオープンクラスでがんばってねー」と読売テレビに言われて涙を飲んだ後輩がいることを忘れてはならない。読売テレビよ、あなたは何がしたいのか?

限界3. プロペラ機部門の限界

プロペラ機はディスタンス部門(飛距離)とタイムトライアル部門(あるポイントまでの1往復にかかる時間を競う)がある。滑空機は機体制限無し部門と全幅12m以下部門がある。もともとはそんな部門なんて無く、黎明期はプロペラよりも滑空機が飛んで優勝したこともあったそうだが、プロペラと滑空機の差が歴然とし、部門を分けざるを得なくなった。

プロペラ飛距離部門は2003年に日本大学が琵琶湖大橋の手前で「これ以上飛ぶと危険だから」と着水させられてから、ある距離から往復し、プラットフォームまで帰ってくるルールができた。でも帰ってきて着水したチームがでてきた(2008年)。だから飛距離部門はまた新たなルールを作らなくてはならない。

一方、時間部門はまともに往復できたチームが少なく、まだまだ記録は伸びそうな感じだ。けれど、鳥人間にとって、いや飛行機というものを発明したライト兄弟もそうだったと思うが、そもそも飛行機は「より速く」ではなく「より遠くへ」を目指していた。でも今さら「これ以上飛ばしたら(番組的に)おもしろくないから飛距離部門常連は時間部門に行ってね」とあからさまに言い放ち、「時間部門か落選か」を事もあろうか当時の歴代記録保持強豪・日本大学理工学部に迫ったことがあるのだ(日大落選騒動

限界4. 以上を踏まえ、番組としての限界(まとめ)

朝日新聞が赤字になる見通しだが、テレビ局が赤字になるのも近いかもしれない。テレビ局はやり繰りの他にも色んな限界が見えたことで、「安価なバラエティの垂れ流しに徹します」と宣言してしまったようなものだ。何とかして続けられないものか。テレビ局主催ではなくして、甲子園や箱根駅伝のように複数のマスメディアが報道し、

大学に入って鳥人間のサークルを選んだ。はじめは「テレビに出たいから」だったが、呑めり込むうちにその考えも変わってきた。そしてOBになった今でもこう思う。

テレビに出たいからではない。飛びたいから、飛ばしたいから飛行機を作っていたのだ、と。



はてなブックマークに名案があった。

id:mk16
NHKが製作権・放映権を買い取る事は出来ないのかな。「アマチュアが英知を集結させる」という意味で究極のコンテストだと思うから。

それだ!