コミュニケーションがうまく取れない子が我が子に危害を与えた時、どう対応するか。

あるショッピングモールに、子供向けの小さなプレイルームがある。フードコートの近くにあり、息子は昼食を食べながらもプレイルームで遊べると思って気が気でないようだった。それほどに楽しみにしてるのが見て取れた。

プレイルームは休日ということもあって、いつも以上に賑やかだったように思う。靴と靴下を脱がせ、さあ行ってこい、と息子を送り出した。息子は一目散に駆け出し、小さな体で段差をよいしょよいしょとよじ登った。そして滑り台(というより斜面と表現した方が近い)をヒューっと滑り降りた。周りは自分より大きな子が多いようだ。1歳9ヶ月の息子は斜面を順番待ちして空いたと見たら躊躇せず滑り降り、また段に向かう。こんな幼い子にも社会というものが出来つつあるのか。

さて、プレイルームのメインは「なんちゃって滑り台」だが、隅の方にプールのような湯船のような、子供2,3人が入れる程度の窪みがある。そこに幼児が1人いた。4歳くらいだろうか。
息子はその窪みに行き、ヨイショと入った。事件はその直後である。先客の幼児が無言でジタバタと脚を動かし始め、息子を蹴り始めた。息子は意味が分からず蹴られるがままに立ち尽くすしかなかった。父ちゃんの出動である-と思ったらもう妻が先客の幼児を叱りつけていた。息子は泣いている。そりゃそうだ。そして先客の幼児は、陰で見えなかったがうな垂れているようであった。母は強い、その本能を垣間見た。なかなか通る声である。その声が響き渡り、漸くその子の母親らしき人物が何が起こっているのか分からない様子でやってきた。来るのが遅すぎる。何かしましたかじゃないだろう。目を離すな馬鹿者。

息子の母ちゃんが行ったところで親父の出る幕は無い、ここでまた威圧するのも本意では無いので行く末を見守るしかなかった。

2,3分ほどの出来事で、あまりしつこいのも宜しくないと見たか、妻はその場を離れた。息子は再び滑り坂にトライしに行った。もう泣いてない。その一方で泣き始めたのはやはり先客の幼児だった。窪みの底で丸まって泣いている。驚いたことに、彼の母もその場を離れたのである。ケアも無い。当然、息子への謝罪などもある筈がなかった。



子ども同士の事に、親が介入するのは最小限に留めておきたい。おもちゃの取り合いとか、滑り台の順番を抜かした/抜かされた、逆走してる子にぶつかった。よそ見していてぶつかって相手が転けたといった事で、両者に言い分があったり息子と相手が対等であれば見守るだろう。子供は子供の社会で揉まれて大きくなれ。しかし今回の事件の問題点は、息子より大きな子が一方的に無言で蹴り始めたところにある。宣戦布告もなければ言い分も不明であり、これは一線を越えていると判断する。

ひょっとして彼は、コミュニケーションの取り方が分からない子だったのではなかろうか。自分は文字通り一部始終を側から観ていただけで想像でしか無いが、先客の幼児は彼だけのエリアに息子という侵入者がやってきて、対応の仕方が分からなかったのでは。そして叱られた事も、ひょっとしたら他人と遊んだ事すらもないかもしれない。それは言い過ぎか。しかし侵入者が来たからと、無言で蹴り続けるか。追い払うか。一緒に遊ぼうという考えはなかったのか。一緒に遊ぶやり方がわからなくて、ふざけ半分で蹴り始めたのか?子供には子供の社会があるが、それにしても考えが無さすぎる。どういう躾をしているのかと、怒りの矛先は親にしか無いが、それ以上に考えさせられたのは妻の行動であった。要約すると、どうして小さい子を蹴るのか、小さい子が大きいお兄ちゃんに蹴られたら痛いじゃないか、不満があればまず口で言ったか、謝れ、分かればヨシ。とそんなことを彼に言っていたのだ。そして引き際が鮮やかだった。徹底的な謝罪や相手への敗北感など要らない。分かれば良いのだ。相手は泣き始めたがそれ以上は彼の親の範疇だろう。

コミュニケーションの取り方が分からない子に、どうやって伝えるか。怪我はしていないが、暴力に対して暴力で応酬するのは大人の対応では無い。妻のとった行動の真意は「何故怒られているかを理解させる」であったように思う。それに気付いて、やはり自分が出て行かなくて良かったとも思った。妻が戻って来たら、どう声をかけようか、「ひどい子だねー」と煽るのはやめよう。
咄嗟に「ナイス介入」とサムアップするしかなかった。