2017年鳥人間コンテストに思う

経験者目線で、今年の鳥人間コンテストについて思うことを連ねていきます。(2220文字)

前置き; 知ってる人は読み飛ばしてok

今や珍しい「視聴者参加型番組」の鳥人間コンテスト。しかしこれは申し込めば出られるようなものではない。抽選?いや、書類選考だ。

14年ほど前の経験だが、書類選考にはいわゆる三面図、General arrangementとも云われる初期配置図を作った。それに加えて安全対策について、着水時の脱出方法(というか力尽きたり気を失ったパイロットをダイバーがどうやって救出するか)の計画書、そしてアピールポイントなんかを添付資料にまとめて読売テレビに送る。それを番組制作側が、飛行機の専門家と一緒に合否を判定する。
今や「これ面白そうだから出してみよう」ではなく「これは飛びそうだ」というお墨付きがないと本戦には出られないのだ。

記録がルールを変えた歴史; 知ってる人は読み飛ばしてok

エアロセプシーというチームがあった。民放の番組なのでスポンサーでもない企業が企業名を出すことはないが、暗黙知としてヤマハ発動機である。ここが5kmか6kmか当時の記録を大幅に上回るビッグフライトを成し遂げた。ところかま、当時の距離測定方法といえば、三角法で、陸地と陸地からサインコサインタンジェントの世界であった。水平線の向こうまで飛んでしまわれては距離が測れない。そこで中継点にボートを止めて、三角法を連続させて推定距離を出すしかなかった。測定に1時間くらいかかったと語り草だ。

すると翌年から、GPSによる測定方法に変わった。GPS受信機を持った測定ボートが着水地点に行って瞬時に距離を出せるようになった。
その後、エアロセプシーは「鳥人間の憧れ」である対岸に到達。そして大人の事情があったかやり尽くしたと思ったのかは分からないが、鳥人間コンテストにはしばらく出なくなった。

2003年、僕の最後の夏は、2日目に数々のビッグフライトが生まれた。テレビ番組は2時間に編集されているが、収録は2日間なのだ。

東北大が北岸に達し、東工大が東北大に負けじと南に飛んだが力尽き、日大理工が琵琶湖大橋に到達した。しかもパイロットは余裕の体力で。力尽きたのではなく、運営による「強制着水指示」によるゴール。そしてまさに「折り返しルール」が生まれた瞬間だった。もうこれ以上飛ばすところがないのだ。

そして折り返しルールができた5年後の2008年、ついに東北大が18km往復=36kmを飛び切り、日大「伝説の琵琶湖大橋」の飛行距離を抜いた。
そこで運営は、距離を競う部門を20km往復(=max.40km)にする一方、1km往復(後に500m往復に)の時間を競うタイムトライアル部門ができた。
ただ、タイムトライアルは着水の安全性を全く考えてないルールだったため、パイロットの安全性に疑問の声が相次ぎ、ついに2016年を最後に廃止となった。

ここから本題

今年のハイライトは何と言っても 20km往復=40km飛び切ったチームがでた ということ。
しかも東工大でも日大でも東北大でもなく、出場わずか2回目のチームが。チーム名には出てませんが、昨年の放送でも紹介あった通り、バックは工作機械のトップメーカーDMG森精機。東大F-TECで落選したのが悔しくて、社会人になって自社製品で最高精度の機体で勝負を挑んだのが去年のことで、初出場とは思えない安定したフライトを見せた。
それが今年の機体は「パイロットの不足分は機体で補う」というコンセプトがあったのかなかったのか、尾翼でキュウリが切れそうな製作制度で、40kmを1時間38分20秒で飛び切った。これは明らかにフルマラソンの世界記録より早いペースだし、平均6.78 m/sec.で飛んでる(旋回含む)。ものすごいテンションで、体力の限界まで飛ぶ学生チームとは違い、40km飛んでもインタビューに肩で息することなく答えられたのは、パイロットが強靭なのかそれ以上に余裕ある機体だったのか。
ほんと、元鳥人間からみて全く無駄のない機体だった。

初参戦の去年は「社会人頑張れ」「日本のものづくりの底力を見せてやれ!」という意図もあったかと思います。それがわずか2年目にして、番組の存続を脅かす存在になったとは読売テレビも想像だにしなかったのでは。
鳥人間コンテストのそもそもは、びっくり日本一コンテストとかいう特番の一コーナーだったらしい。それが人気が出て単独の恒例行事になった。そして参加者がガチ過ぎて番組も進化し、機体も進化し続けてきた。
でも今回、当初想定外のことが起きた。

「手作り飛行機」の飛距離を競う大会に「工作機械メーカーが本気出してきた」と。Twitterで「学生ファッションショーにプラダがきて優勝かっさらった」というのを見かけましたがまさにそれ。
これどうすんの?
もし40km飛び切ったのが学生チームだったら、じゃあ来年は25km往復にするかとか2往復にするか、という話になろうかと思う。でも違う。ガチの工作機械メーカーが本気出して作った機体が優勝したことで、学生チームの「工夫しても所詮敵わない」と意気消沈しやしないだろうか。それとも逆に燃えるような気概を見せてくれるだろうか。

もう社会人枠を作るのか…するとMとかKとかIとかFとか重工各社が本気出して参戦すると面白くなるだろうが、あまり現実的ではない。

鳥人間コンテストは、ギネス記録を含む世界の公式ルールとは異なる独自ルールで運営され、大小あるが毎年ルールが変わっている。そして視聴者参加型バラエティー番組の枠を超え、もう後戻りもできないようなところにあるのも事実。さて来年はどんな大会になるのだろう…。