ソマリア沖の海賊対策について少々

特定の政党は応援しないし、ここでは政治的話題を取り上げないようにしてたんだけど、ちと気になるので少々意見。
その前に。
民主「海賊対策」視界不良 他の野党に配慮、方針打ち出せず - 産経

 ところが、民主党平田健二参院幹事長は20日の記者会見でこんな驚くべき発言をしてみせた。
 「海賊というのは漫画で見たことはあるが、イメージがわかない。ソマリア沖で、日本の船舶が海賊から襲撃を受けて被害を受けたということがあったのか」
 同党の安全保障政策の不安な一面を、浮き彫りにしているといえそうだ。

(via.痛いニュース(ノ∀`))
ま、産経なので反・民主のバイアスが掛かってるんだろうけれど。平田よ、何の為にSSAS(船舶保安警報装置)が義務づけられてると思ってるんだ!(というかSSASという存在も知らんだろうけど)。2002年のIMO(国際海事機関)による海上人命安全条約(SOLAS条約)締約国政府会議において、一定の船舶(総トン数500GT)に対して船舶保安警報装置(SSAS:Ship Security Alert System)の搭載を義務付けることが採択されている。もちろん日本は批准した。批准するのはどこでだ?国会に決まっとる。え?国会議員なのに覚えてない?へー。

SSASってのは警報ボタンを操舵室や船長室などにこっそり隠しておいて、テロを含む人為的非常事態になったときに「ポチっ」→衛星経由で船の情報や現在位置を陸上の基地局へ自動送信→こっそり助けを求めるシステム。陸地を離れたら孤立に等しくなる船で、万一の非常ボタンや無線装置は性能基準まで規格化されている。ってのは航空機も似たようなもんだ。

そもそも海上輸送の現状ってそんなに知られてないんじゃないか、と思う。

  • 地球の7割は海
  • 重量ベースにして全世界の物流の99.7%は海上輸送
  • 日本は四方を海で囲まれ、陸地には資源が無い
  • 電気やガスも天然ガスなり石油なりウランなりを輸入しなければならない
  • 原油を大量に運べる唯一の手段がタンカー。天然ガスも然り。ちなみに今どきの原油タンカーは最大積載重量30万トンが主流(全長330m程度)

という小学校の社会科レベルは皆知ってるだろう(重量距離換算で99%以上という数字は海事関連の仕事をして初めて知ったんだけど)。さらに現状を付け足す。

  • 船にも住民税みたいなものを船籍国や港に納める
  • 概して日本の税金は高い
  • 例えばパナマは国策として、安い船税(とは言わないけれど)で世界中の海運会社を誘致している(ついでにパナマ運河も通ってくれたら国は潤う)
  • 日本の海運会社がパナマに現地法人を立てて船を発注→名目上、パナマ船籍なので日本の船ではなくなる
  • ここしばらく、自ら進んで船乗りになる日本の若者は激減(過酷な労働環境…というよりは、一度出向すると数ヶ月家には帰らないなんてザラだ)
  • 船員も労働力。Officer(船長、機関長など偉い人)は日本人でもその他はフィリピン人だったり中国人だったりインド人だったり。
  • 日系海運会社だけどパナマに拠点があって、パナマ船籍で、乗組員のほとんどが外国人…という外航船がいろんな荷物をもって日本の船に入港

という状況。

んで、ソマリア沖に海上自衛隊を派遣して護衛の対象を日本船と日本人に限ってしまうと…

  • 日本船だけを守る → 日系海運会社の外国籍(たとえば日本郵船のパナマ法人が所有しているパナマ船籍)は守らないのか?
  • 日本人だけを守る → 日本人しか乗ってない船ってほとんど無いけど?

ってなことが起きる(2つ目のはちょっとズレてるか?)。そこで集団的自衛権がうんたらかんたらという議論になるんだろうなぁ。明らかに威嚇してしまえば憲法9条の1項に引っかかる気がしないでもない。

ところで。
イマドキの海賊はロケット弾を持ってたり威嚇どころの騒ぎではなく、ジョニーデップもでてこないしフック船長みたいな古風なもんじゃない。ましてやガラクータ、トウヘンボク、ドタバータ、ヤッホーのように間が抜けているはずもない。海賊はテロなのである。定義的には、調査捕鯨船を過剰に威嚇するグリーンピースシーシェパードとやらも海賊/テロ行為なわけで、ソマリア沖に自衛隊を派遣するのが合法になるんなら、調査捕鯨船も護衛艦で保護するのも合法になるんだろな。命の危険に晒されているんだし。